COLUMN コラム
最近、気が付いた。
「何でもツールで解決できる」という考えを持っている人が多い。
たとえば情報共有、マニュアル整備、社員教育などなど。
「ITツールを導入すれば、どんなことでも解決できるんだ」と言わんばかりだ。
それを助長するかのように、求めるようなクラウドサービスが次々登場しては導入を決意している。
さて、そんな会社で働く現場スタッフはどうだろうか?
恩恵を受けていると感じている社員はどれほどいるだろうか?
残念なことにツールが増えるたびに覚える操作が増え、混乱しているのが現実である。
たとえばエンターキーを押して改行なのか、「Altキーを押しながらなのか」、「Shiftキーを押しながらなのか」「Ctrlキーを押しながらなのか」サービスによって微妙な違いがあり、それぞれ覚えるのも大変だ。
運用ルールも覚えないといけない。
新しくできるルールに縛られ、どんどん「機械的にやらされている感」が増す毎日を過ごす人も少なくない。
「業務改善のために折角ツールを導入したのに、誰も成長していない」なんてことが起きてくるだろう。
もしこのような事態になれば笑えない話だ。
私はあえてこのように断言したい。
「人が育たない会社ほどツールに頼りたがる」のである。
そこで今回は、そのような組織を作り上げようとしている経営者に対して警鐘を鳴らす意味も込めてコラムを書いてみようと思う。
教える気がないくせに、教える責任だけはツールに押し付ける
そもそもの話だが、企業にとって人材とは強化可能な資産である。
まるでゲームのような言い草だが、人材を大事にして投資する企業に所属する人材ほど優秀になる傾向にある。
だが、人材を育てることは時間がかかるものである。
研修や講演を受けることだけが人材教育ではなく、日常の業務においても人材教育を行う必要がある。
とはいったものの日常の教育においては教える側のスキルが大きく求められることとなる。
そのため試行錯誤の連続が必要となる。
当然ながら非効率なように見えるだろう。
そんな時間があるなら業務を行うべきだと思ってしまうだろう。
しかし、短期的な効率を追い求めるだけが経営ではない。
中長期的な視点での利益も見ていく必要がある。
この「非効率」が企業を成長させる「燃料」になると分かっている企業ほど、人材育成に全力を注いでいる。
「人が育たない」と嘆く会社ほど人材育成に力を入れていない傾向にあり、そういった企業は育成にかかるコストを「無駄なコスト」として切り捨ててしまう傾向にあるのだ。
そういった企業は大きく2つに分類することができる。
1つは極端にアナログでデジタルなんて一切考えたことのない「倒産」待ったなしの企業である。
アナログで業務量が多すぎて教育の時間を作る余裕がなく、成長機会が生まれづらい。
現代はIT社会であり、商品ライフサイクルは2年~3年と言われている。
2Bで取引先が固定されているから安心だと思っている企業もあるだろうが、そのように「あぐら」をかいだ会社ほど何かあった時に倒産の憂き目に遭っている。
もう1つはデジタルサービスを導入しまくる企業である。
前者よりもIT社会に適応している点では優れている。
しかし、こういった企業の中で問題なのは「教育」を無駄と切り捨てている企業である。
こういった企業は人が育たないのは組織としての在り方に問題があるのにもかかわらず、すべて人のせいにしていたりツールのせいにしていたりして、他社にその責任を求める傾向にある。
要するに、「ツールを導入したので新人教育にかける時間も削減しよう」と捉え、教える責任をツールに丸投げしてしまう、ということである。
確かにチャットツールを導入したらコミュニケーションを円滑にできる。
タスク管理ツールを導入したら、タスクの抜け漏れも少なくすることができる。
マニュアル管理ツールを導入したら、業務の属人化を解消することもできる。
一見すると正しいように思う。
だが、「教育」という観点で見れば、本質から外れてしまっているのだ。
ツールで育つのは「操作方法」だけ
そもそもツールで覚えられるのは、操作方法だけだ。
どの画面で何ができるのか、どのボタンを押せばいいのか、という操作手順は覚えられる。
作業の手順は覚えることができる。
ツールを使って便利に業務を行うことができる。
それで、人が育つかどうかは別である。
しかし、育つのは“操作方法”だけだ。
たとえば
「Aさんは毎朝3つのツールを立ち上げるが、結局メールと電話での確認が必要だった。」
「ある会社では、マニュアル整備に力を入れたが、結局“どこに書いてあるかわからない”と質問が絶えなかった。」
といったことが起きるかもしれない。
この時必要なのは何か?
考える力と判断する力である。
しかし、ツールの操作方法をいくら学習しても、考える力も判断する力も磨かれない。
結果として指示待ち人間が大量に作られてしまう。
ツールで業務の属人化は解消するかもしれないが、「人の主体性」まで解消されてしまうことになりかねないのだ。
人材育成こそが企業を支える
育成とは、そもそも人が人を育てる取り組みのことである。
会社の中で育成と言えば、作業を教えることに留まらない。
企業としての使命、方向性、社会的貢献性はもちろん、業務における意味や価値もまた教える必要がある。
たとえば
- この作業の意味は何か?
- この業務を行うことで提供できる顧客価値とは何か?
- 全体の中で無駄と思える作業の価値は何か?
- なぜこのやり方が求められているのか?
- この場合の判断はどうすればよいのか?
といった問いは育成を通してでしか人に伝わらない。
ただ漫然と指示命令するだけでは育たない。
- マニュアルを見ればよい
- 忙しいから教える暇がない
- いいから作業をしろ
といった考えで人が育つはずがないのだ。
そのように考えるのであれば社員を採用するのではなく、クラウドワーカーやロボットに頼るべきである。
社員を雇用する以上は、育成をする義務があるのだ。
ツールはただの補助輪である
誤解しないでいただきたいのが、ツールの導入をしてはいけないと否定しているわけではないことだ。
今やIT社会であり、ITツールの導入は必要不可欠である。
属人化の解消や業務の見える化に貢献する部分も非常に大きい。
それに、弊社のサービスである「楽デジ」は皆様のパソコン作業時間をゼロにする「ITツール」を開発して納品するサービスだ。
そもそもITツールを提供しているのだ。
そんな私がITツールを真っ向から否定するはずがない。
ここで言いたいのは、ITツールに頼りきりになってしまい、社員への投資を行わないという考えを持つのは危険であるということである。
ITツールは、あくまでも会社を大きくするための補助輪に過ぎない。
会社を大きくする原動力はやはり「人」である。
ツールがなくても人がいれば回る。
ツールがあっても人がいなければ回らない。
逆ではない。
人こそが大事なのだ。
ツールは、人の代わりになることなんてできないのだ。
人が人を育てるために、その時間を確保するのがツールの役目であることを理解していただきたい。
社員への投資を考えるのも経営者の仕事
会社規模によって社員への投資ができる・できないはある。
年間利益が赤字なのに社員投資なんてできない。
ある程度の利益がないと難しい。
だが、いずれは社員への投資活動を行うべきであるということを重々頭に入れておくべきである。
便利なツールを導入して終わりではなく、それによってもたらされた時間的余白をどのように再投資するのかを検討するのが経営者の仕事である。
顧客に向き合う時間を確保することや売上を上げる時間を確保することも大事だ。
だが、ここでもう1つの選択肢を提示したい。
それこそ「従業員を育成する時間を確保すること」である。
育成は組織の未来を作る。
育成を止めないこと・人の成長を諦めないこと。
これこそ今後の時代を生き抜く組織の条件ではなかろうか。
最後に
今回のコラムはどうだっただろうか。
何でもかんでも効率化するのは正しいのか?と聞かれることがある。
この時、私は「アナログの中に光るものがあるので、何でもかんでも効率化するのも間違いである」と回答している。
この回答の中にあるものの1つが人材投資である。
社員教育は非常に時間のかかるものであり、効果も見えにくい。
経営者としては効果がなければ止めたくなる気持ちもわかる。
しかし、世界水準で見てみると、日本企業の人材投資率は非常に低い。
アメリカやイタリア、フランスと比べると雲泥の差がある。
優秀な人材がいないと嘆く前に今いる人材を優秀にする努力も必要だ。
変化の時代だからこそ、「人を育てる」という一見非効率な行為こそが、企業の未来を作る唯一の道ではないだろうか。
さて、今回のコラムが皆さんの組織づくりや人材育成のヒントになれば幸いである。
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それではまた次回のコラムでお会いしましょう。