COLUMN コラム
最近、やたらと「DXに取り組んでます」と自慢する経営者が増えてきたように感じる。
自社の取り組みとしては華々しい成果を掲げているが、蓋を開けてみると、どうにもその実態は“なんちゃってDX”ばかりだ。
たとえばこんなもの。
- タスク管理サービスを導入しました
- ノーコードツールを使いはじめました
- AIチャットボットを導入しました
確かに見た目には「DXっぽい」。
ITに詳しくない人からすれば、「柔軟な取り組みをしている先進的な企業だな」と見えるかもしれない。
でもそれ、あくまで“風”でしかない。
厳密に言うと、それは「ただのIT化」である。
目次
「DXって何?」と聞くと、誰も答えられない
私は、こうした“なんちゃってDX”を誇る経営者に共通するポイントを発見した。
それは、そもそもDXが何かを知らないということだ。
DXは、ITツールを導入するだけで終わる話ではない。
単なる運用のことでもない。
本来のDXとは
デジタル技術を活用して現場業務を根本から見直し、再設計し、顧客に新しい体験価値を提供する取り組みのこと。
である。
つまり、IT導入は単なる“手段”であって、重要なのはそれを使って何を実現できるのかという“目的”の部分。
だが多くの企業では、外部ベンダーやIT/DXコンサル、中小企業診断士の言葉だけを鵜呑みにして、現場の実態も課題も把握せずにツールを導入してしまう。
“流行りに乗ってる感”を出したいがために、安易に飛びついてしまうのだ。
なんちゃってDXの原因は「見栄」と「思いやりのなさ」
では、なぜこうした事態が起きるのか?
理由は大きく2つある。
1. 見栄を張りたい
「うちもAI入れました!」
「ノーコードで業務改善してます!」
など、聞こえの良い言葉でアピールしたい経営者が多い。
本当は中身が追いついていないのに、「最先端のことやってる感」を出したいのだ。
とくに最近のAIブームに乗って、よく分からないけど「とりあえずAI入れとけ」みたいなノリの経営者も多い。
「分からないけど導入すれば楽になるんでしょ?」
そう思ってる時点で、もうDXじゃない。
2. 現場を見ていない(もしくは無関心)
もう一つは、現場を大切にしていないという根本的な問題。
「社員は家族だ」と語る経営者に限って、現場の声を聞かずに勝手にツールを導入する。
これと似たようなことが日常生活でもある。
そう、家族に相談もせずに高級車を買ってくるのと同じことだ。
私は怖くてできないが、それを平然とやってしまうのが“家族思い”の経営者だったりする。
導入前にやるべきこと、それは「ヒアリング」
ITツールを導入する前に、絶対にやらなきゃいけないことがある。
それが徹底した現場ヒアリングだ。
具体的には以下のようなことを聞き出したい。
- 現在の業務フローを把握
- 工程ごとの必要時間と人数
- 省略可能な作業の特定
- 属人化している工程の洗い出し
- ボトルネックの特定とその要因分析
これをやらずにツールを導入するのは、5年以上会っていない親戚に洋服を買うようなもの。
せめてサイズや好みを聞いたり、一緒に買いに行くのが普通だろう。
ヒアリングなしのIT導入は、失敗の確率を爆上げしているようなものだ。
しかも、そのヒアリングすら他人任せ、外注の“IT部門”に丸投げだったりすると、もう目も当てられない。
ヒアリングの精度は「安心感」で決まる
注意点がもう一つ。
ヒアリングをしても、現場が正直に答えるとは限らないということ。
人は平気で嘘をつく。
「5時間かかる作業を2時間で終わる」と言うのは、よくある話だ。
なぜか?
- 自分の評価が下がるのが怖い
- サボってると思われたくない
- 他の人より時間がかかってるのがバレたくない
これを防ぐために必要なのは「心理的安全性」である。
つまり、安心して正直に話せる空気をつくること。
経営者が「社員は家族」と本気で思っているなら、こういう土台は作れるはずだ。
「DXやってます!」は自己満で終わってないか?
社員が正直に言えない環境だと、導入後にも影響が出る。
現場は「これ使いづらい」と思ってても、経営者には何も言えない。
なぜなら、
- 文句を言えば評価が下がるかもしれない
- 社長が決めたことに異を唱えるのは怖い
だから仕方なく使っているだけかもしれないのに、社長は「何も言われないってことは成功したな!」と勘違いする。
この“勘違いDX”こそが、組織崩壊の第一歩になりかねない。
成功するための準備は、地味だけど超重要
ITツールを導入する前に、やるべき準備は以下の通りだ。
- 現場とのコミュニケーションを徹底すること
- 心理的安全性をつくること
- 導入後も現場からフィードバックを得られる仕組みを整えること
導入して終わり、ではない。
むしろ、導入してからが本番なのだ。
最後に
今回のコラム、どうだっただろうか?
DXは素晴らしい取り組みだ。
会社を成長させたいという経営者の思いも、心から応援したい。
でも、現場のことを見ずに「なんちゃってDX」を自慢していないか?
一度立ち止まって、振り返ってみてほしい。