COLUMN コラム
AIの進化が、人間の仕事、組織のあり方を根本から問い直す時代を迎えている。
多くの経営者は、「AIを導入すれば、会社の生産性は劇的に向上する」と、その技術的な側面や「コスト削減」という短絡的な側面にばかり目を奪われてはいないだろうか?
しかし、その思考は危険である。
日本のDXが全く進まない根源は、まさにここに存在する。
単純なコスト削減にしか関心がない限り、いつまで経っても真のDXは進むはずがない。
AI時代に本当に問われるのは、テクノロジーそのものだけではない。
企業に属する「人間」がどう変革するか、そしてその変革を許容し、育む組織の「覚悟」に他ならない。
AIはあくまで道具だ。
その道具を使いこなすべき人間が、旧態依然とした「思考停止」の状態に陥っていては、AIの真価を引き出すことなど不可能である。
むしろ、AIの普及は、人間の思考力の有無を容赦なく暴き出し、企業の未来を左右する決定的な要因となるだろう。
今回のコラムでは、AI時代を生き抜くために日本企業が直面する現実を突きつけ、社員を「考える人」へと変革させるための本質的な条件を、あなたに提示する。
目次
AI時代に暴かれる「思考停止」という病
AIは私たちの業務を強力に支援する。
例えば、メール作成、議事録作成、文字起こし、そしてアイデア出しなど、多岐にわたる作業を手助けするだろう。
これによって私たちは、事業活動をより自由に、そして深くお客様に貢献できるようになる。
そんな未来が待っている。
だが、その裏で競争はこれまで以上に激化する。
今でさえ商品のライフサイクルは3年と言われているが、AI時代においては2年、あるいは1年と、さらに短縮される可能性すらある。
それだけ経営が難しくなることは火を見るよりも明らかである。
このような状況下にあって、日本企業の多くは、AI時代に対し極めて慎重な姿勢を見せている。
世界では当たり前のように使われているAIが、日本では全くと言ってもいいほど活用されていないのが実情だ。
たとえば、アメリカや中国では40%もの企業がAIを使用しているのに対し、タイに至っては90%に達すると報じられている。
対して日本は、わずか9%に過ぎない。
タイと日本は、まさに真逆の状況にある。
このままで良いはずがない。
なぜこのような事態に陥っているのか、その原因を深く掘り下げる必要がある。
日本企業がAI時代に直面する「三重苦」
その原因は、他ならぬ経営者にある。
何でもかんでもコスト削減や費用対効果を意識しがちで、自らの常識外のことは理解しようともしない経営者が、日本企業を停滞させているのだ。
このような経営者こそが、日本企業特有の深く根付いた構造的な「三重苦」を生み出している。
第一の苦:人材投資への「思考停止」
日本は従業員へのセーフティが、あまりにも強すぎる環境にある。
企業は従業員に対して厳しく指導しにくい。
そのため、従業員は正社員として入社すると、解雇されない安心感から、ともすれば向上心を失いがちだ。
全ての人がそうではないが、精神的な課題を抱え、十分な貢献をせずに給与を求めるケースすら散見される。
世界的に見て、日本人が大人になると学ぶ意欲を一切失う傾向があるのは、こうした背景も影響しているのではないか。
では、ここで問いたい。
もし学習意欲のない人に人材投資をすべきか?と聞かれたら、あなたはどう答えるだろうか?
答えは単純だ。
NOである。
そう、つまり、日本企業はこれまで学習意欲の低い人が多いという現実から、「育てる」ということを怠ってきた。
ある意味、当然の帰結である。
そのため、日本企業は「すでにスキルを持つ人を欲しがる傾向」が強く、育成するよりも採用に注力する。
だが、「すでにスキルを持つ人」はどの企業も欲しがるため、激しい奪い合いになる。
結果として、「すでにスキルを持つ人」を確保できない企業が多くなり、今の日本が誕生したのだ。
日本企業を復活させるための結論として、長期的な視点で、人への本質的な投資、すなわち育成に力を入れることこそが、最終的な投資金額を抑え、他の面での投資対効果も得るための賢明な道である。
第二の苦:低すぎるITスキルとITアレルギー
IMDの調査によると、日本は世界最下位のデジタルスキル保有国である。
67か国中67位。
果たして、そんな国でAIを使いこなすことが可能だろうか?
不可能に近いと言わざるを得ない。
特に問題なのは、経営陣自身のITスキルが低すぎることだ。
ITスキルが低いからITが分からない。
ITが分からないから、IT製品であるAIも分からない。
AIが分からないから、AIを導入した後の具体的なビジョンが思い浮かばない。
結果としてどうなるか?
費用対効果でしか語ることができなくなる。
これでは、DXと同じ結末だ。
コスト削減しか話すことができないため、真のDXは達成できない。
できたのは、中途半端なIT化だけである。
この短絡的な思考に陥り、ITの真の価値を理解せず、AI導入へのアレルギー反応を引き起こす。
費用対効果やコスト削減しか判断材料がないため、そこだけで判断しようとして間違いを犯すのだ。
第一の苦で述べた通り、そもそもITを知らないことが問題である。
従業員への教育とともに、経営者自らもITを使いこなす能力を持つべきである。
第三の苦:迫りくる危機への「無関心」
コスト削減しか興味のない経営者は、当然ライバルに対しても無関心である。
競合がAIを導入したら、どうなるだろうか?
あっという間に競争優位性は失われるだろう。
AIだけならまだしも、IT化やDXまで完備したら、その差は手の打ちようがないほど広がる。
もはや倒産するしかなくなるという状況が現実となる。
そんな危機的な状況が今、まさに目の前にあるのだ。
経営者であれば誰でも容易に予見できる危機があるにもかかわらず、多くの経営者は驚くほどに呑気である。
これは無関心が故である。
無関心こそが最大の罪であり、あなたの会社を破滅へと導く最大の要因となることを知っておくべきである。
組織を「思考の場」に変える3つの条件
この三重苦がいかに日本企業のIT化、DX、AI活用を阻害しているのか。
その根本原因は、他ならぬ社長にあるということを深く理解する必要がある。
まずは、社長自身の意識を変革することから、この変革は始まる。
AI時代に生き残るために、組織を「思考の場」に変革することが何よりも重要だ。
その道標として、具体的な3つの条件を提示しよう。
条件1:経営者の「問」と「育成への覚悟」
経営者自身が自らを問うことを忘れてはならない。
日本人は大学を卒業すると、何かしら学習するという意欲を失う傾向にある。
大人になってからが本番だというのに、学ぶ意欲がない。
しかし、本当にそれで良いのだろうか?
特に経営者である以上は、常に学び続ける必要がある。
自らの成長を疑い、経営者として正しくあり続けているのかを問い続ける必要がある。
もしその問いがなされているなら、自らもそうだし、従業員に対しても育成へ投資するという決断を行うだろう。
今後ますますITスキルは必要とされる。
そんな世の中でパソコンが使えないことがどれだけの問題か。
その深刻さを正しく理解し、「育成への覚悟」を決めてほしい。
条件2:挑戦と失敗から学ぶ文化
日本人はとにかく失敗を嫌う傾向にある。
だが、失敗がなければ成功はないという単純な真理を忘れてはならない。
補助輪がない自転車を一度も失敗せずに乗れた子どもは少ないだろう。
多くは何度も転びながらも挑戦したからこそ乗れるようになったのだ。
あのユニクロの柳井正氏でも「一勝九敗」という書籍を出している。
10回中1回の成功と読めるが、実は裏話として100回くらい失敗しているそうだ。
あの柳井氏で100回失敗しているならば、私たちであればもっと失敗して当然である。
新しい思考や創造的な挑戦を行うと、必ず失敗する。
これを「悪」と断定するのは間違いだ。
成長するための学びと捉えて、次に活かす文化が大事だ。
そうした文化がないから思考停止の組織が生まれてしまう。
USJがV字回復を遂げたのも、失敗を恐れない挑戦の賜物だった。
失敗を許容する安全な場こそが、組織を強くするのだ。
条件3:思考を促す「時間と環境」への投資
AIを導入する、と聞くとすごく簡単に聞こえるかもしれないが、導入し、使いこなすためには訓練が必要である。
そして、訓練するためには時間が必要だ。
では、時間を生み出すのはどうするのか?
ここで思考停止になる経営者が多い。
「できない」と答える経営者もいれば、「採用活動」と的外れなことを考える経営者も多い。
そうではない。
答えは簡単で、明確だ。
今ある業務を短縮すればよい。
たったこれだけでできる。
そのためのIT投資は2つの側面がある。
1つは、人材投資、中でもパソコンスキルの向上と表計算ソフトの活用技術の向上である。
もう1つは、業務効率化である。
業務効率化は、業務フローの見直しや最適化をはじめ、いかに少ない時間・少ない人数で同じかそれ以上の成果を生み出すことを指す。
業務効率化は即効性が高いため、人材投資とセットで行うことでより高い効果を発揮する。
業務効率化は専門性のある取り組みなので、もし難しければ、我々に依頼していただくと、10時間業務が10分になるなどの劇的な効率化を実現できる可能性がある。
もしご興味があれば、下記フォームから問い合わせて欲しい。
さて、話を戻すが、人材投資と業務効率化といった取り組みを行うことで、考えて行動するための時間を確保することができる。
すぐにコストばかり目が行きがちだが、それ以上に価値のあるリソース確保は業務環境への投資でしか得ることができない。
業務環境への投資は経営者として必要不可欠であることを理解してほしい。
そして、生まれたリソース、つまり、人や時間は何に使うべきだろうか?
ここで決して無駄にしてはいけない。
社員のリスキリングやITスキル向上、顧客分析、サービス品新向上への取り組みなど未来を作るための活動に活かすのが最適である。
日本の経営者はすぐにツール導入をコスト削減目的で実施しがちだが、単なるツール導入で終わらせてはならない。
社員が本質的に事業を動かし、新たな価値を生み出すことができる時間をどう生み出し、活用できるかという点が、未来を作る布石となるのだ。
「思考する組織」が掴む未来
これまで見てきたように、経営者が発端となる「三重苦」を乗り越え、AI時代を生き残る「3つの条件」をクリアできた企業は、「思考する組織」へと変革することができるだろう。
AI時代においては、「思考」が一つの鍵である。
この鍵が、圧倒的な競争優位性を確立させ、持続的な成長を遂げさせる。
AIはすぐに「脅威」として語られる。
そういった側面もあるが、その本質は「最高の協働パートナー」である。
AIを正しく活用することこそが、ライバルとの闘いに勝利をもたらす条件なのだ。
今まで私たちは機械でもできるような仕事を人間に任せてきた。
それは仕方のなかった部分でもある。
だが、これからはそういった仕事を機械に任せて、私たち人間はより人間らしい仕事に集中できる世界が待っている。
その時、社員一人ひとりが、企業としての進むべき道や顧客への提供価値を自らの頭で考えて、企業と一緒に行動することが、企業価値を最大化することに繋がっていくだろう。
この未来を獲得するためにも、改めて私たち経営者の意識の変革が最重要であると申し上げて、今回のコラムを終えたい。
最後に
今回のコラムはどうだっただろうか。
読者の皆様にとって、今回のコラムが何か気づきや学びになれば幸いである。
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それでは、また次回のコラムでお会いしよう。