COLUMN コラム
日経新聞やビジネス誌を見てみると、毎日のように大手企業のDX成功事例が華々しく報じられている。
そういった記事を見て、「ウチもあれをやれば変われる」と安易に考える企業もいるかもしれない。
もし、そう考えているのなら、それは大きな間違いだ。
今すぐその幻想から目を覚ますべきである。
なぜなら、大手企業のDXは、中小企業の現実とはかけ離れた「幻想」に過ぎないからだ。
潤沢な資金、豊富な人材、そして数年単位の時間を投じられる大手と、日々の経営に四苦八苦しながらも未来を描こうとする中小企業とでは、立つ土俵も、持つ武器も、根本的に異なる。
彼らの成功体験を、そのままあなたの会社に当てはめようとすること自体が、そもそも無謀なのだ。
この無謀な模倣は、中小企業にとって何をもたらすか?
多額のIT投資は、期待通りの成果を出さずに形骸化し、資金は底をつき、導入に携わった社員は疲弊する。
結果として、あなたの会社は、DXによってではなく、DXの「模倣」によって、悲劇的な結末へと導かれることになる。
今回のコラムでは、この危険な幻想を打ち破る。
中小企業が本当に取るべきDX戦略、すなわち「中小企業だからこそ」の強みを最大限に活かし、真の成長を掴むための「勝ち筋」を、徹底的に解剖しよう。
目次
大手企業が隠す「DXの闇」と「コスト削減思考」の罠
メディアは大手企業のDX成功事例を報じ、多くの経営者はその輝かしい部分だけを見つめる。
しかし、その裏に隠された「DXの闇」に目を向ける者は少ない。
実は輝かしい成功事例を紐解くと、2つの悲しい現実がある。
1つ目は、輝かしいDX成功事例はDXではない事実である。
そもそもDXをしていないのに、DX成功事例として取り上げられているのだ。
沖縄に行こうとして北海道に着いてしまった、というレベルで勘違いを起こしている。
どうやったら逆の方向に行くんだ?と思うほどだ。
この原因は日本企業に深く根付く「コスト削減思考」が引き起こす病理に他ならない。
コスト削減しか興味がなく、他の重要な要素に目が向かない。
それはDXではなく、中途半端なIT化である。
リードタイムの削減もできず、売上も向上せず、利益も増えず、顧客満足度も向上しない。
シェアの拡大なんて言わずもがな、である。
ただただコスト削減しか成果が出ない。
これがDXであるわけがない。
IT化ですらない。
何とも悲しく虚しい結果である。
本来、DX化とはコスト削減を目的としない。
顧客体験価値を向上させて顧客満足度を上げて、市場シェアの拡大・売上拡大・利益増大を引き起こすことがDXである。
コストは増えることすらある。
だが、日本のDXはなぜかコスト削減しか明らかな効果がなく、これは世界的に見ても異常である。
ここに誤ったDXが行われている証拠がある(IPAの調査結果による)。
そして、2つ目に、ITリテラシーの欠如がもたらすIT技術を現場で使いこなすことができない事実である。
潤沢な資金を投じて導入したとしても、利用者が満足に活用できない。
「ITツールを導入すれば効率化できる」
「DXを推進すれば変われる」
という安易な思考は、往々にして「投資対効果」ではなく「導入自体」を目的化してしまう。
その結果、無駄な投資を繰り返すこととなる。
こうした目的なき見せかけだけの「なんちゃって」DXだけが日本で横行してしまうのだ。
大手企業は巨大な組織である。
そのため、間違ったDXを行ったとしても、有り余る体力で吸収することができる。
だが、中小企業にはその余裕はない。
あなたが真似すべきは、大手企業の悲しい「成功」ではない。
その裏に隠された「失敗の本質」から学ぶことだ。
改めて伝えるが、大手企業の盲目的な模倣は、中小企業にとって「死」を意味する。
なぜなら、大手企業が許容できる失敗が、あなたの会社にとっては致命傷になりかねないからだ。
大手企業は失敗しても何度もトライできる体力がある。
そのトライを後の事業に発展させることすらできる。
だから、トライし続けて仮初の成功を収め、記事になるのだ(成功しても、実はただの半端なIT化であることは誰も分かっていない)。
目の前の流行に流され、本質を見失う「DXの闇」に、あなたは陥ってはならない。
中小企業が持つ「見えない武器」を再認識せよ
では、中小企業に勝ち筋はないのか?
結論から言おう。
ある。
というか、勝ち筋しかない。
更にいうと、大企業には真似できない、強力な「見えない武器」を、あなたの会社は既に持っているのだ。
その武器とは何か?
その武器は、「意思決定の速さ」・「顧客との距離の近さ」・「小回りの利く組織」・「社員の結束力」の4つである。
それぞれについて解説しよう。
意思決定の速さ
大企業のような複雑な稟議プロセスはない。
あなたが「やる」と決断すれば、迅速に実行に移せる。
このスピードこそが、市場の変化に柔軟に対応し、競合に先んじる最大の武器となる。
だが、残念なことにこの意思決定は、社長がポンコツだと死ぬ。
だからこそ、社長は常に責任感を持ち、自らを成長させ続ける責任があることを理解すべきだ。
顧客との距離の近さ
大企業が何重ものフィルター越しにしか顧客の声を聞けないのに対し、あなたはお客様の生の声を直接聞くチャンスに恵まれている。
お客様の課題を肌で感じ、迅速にサービス改善や新商品開発に繋げられる。
これは、顧客との信頼関係を深めるチャンスがある。
だが、ここも問題がある。
日本企業はよいものを作れば売れると思いがちだ。
ちゃんとお客様に向き合っているのか?
ここが非常に大事である。
アンケートを取るなどして、お客様の声を確保すること。
これが、独自の価値を創造する源泉だ。
小回りの利く組織
特定の課題に特化し、柔軟かつ迅速にリソースを集中できる。
全方位で戦う必要はない。
あなたの会社の強みが活きるニッチな市場で、専門性を深掘りし、圧倒的な優位性を築くべきである。
だが、今内製化というワードがまるで最先端のように語られる。
内製化は中小企業を潰しかねない。
企業にとって、お客様にとって、社会にとって選択すべきことは何かをしっかり検討すべきである。
社員の結束力
社員一人ひとりの顔が見える規模ゆえに、変革の意義を直接伝え、理解と協力を得やすい。
社員が「自分ごと」としてお客様に貢献するために何をしたらよいかを考え、自律的に動く組織を作れるのは、中小企業ならではの強みだ。
大手企業であればあるほど、なかなか難しい。
それは中小企業であれば、1人1人がお客様に触れ合う機会が多いからだ。
いかにお客様に触れ合い、そのリアルの声を聴く環境を作るかがポイントだろう。
中小企業だからこそ実現できるDX
これらの強みこそが、あなたの会社がDXを成功させるための真の武器なのだ。
弱みと捉えられがちな点が、DXという変革の時代においては、むしろ強みになり得る。
DXとは、いかにお客様に喜んでいただいて、選んでいただける企業に成長できるかという取り組みである。
よって、どの企業も実施すべきだし、継続すべき取り組みである。
そして、中小企業の方がリアルな場に接しやすいため、よりDXを行いやすいのではないだろうか。
この逆説的な視点を持ち、あなたの会社が持つ「見えない武器」を再認識しなければならない。
「目的ドリブン」で描く中小企業DXの羅針盤:捨てるべきもの、磨くべきもの
といっても、中小企業がDXを成功させるためには、どうしたらいいだろうか?
その唯一の方法は、「目的ドリブン」で戦略を描くことだ。
あなたは、何のためにDXを行うのか?
コスト削減などという矮小な目的ではないはずだ。
顧客にどんな新しい価値を提供するのか?
社員をどう幸福にするのか?
あなたの会社の存在意義を再確認しなければならない。
この「目的」が明確でなければ、どんなITツールを導入しても、どんなに多額の投資をしても、それは単なるお飾りで終わる。
あなたの会社の強みを活かせる領域に資源を集中させ、お客様が喜んでいただけることは何か?を見定める。
最初から完璧を目指す必要はない。
徐々に実施する。
小さな成功体験を積み重ねることが大事だ。
その積み重ねが次のステップに繋げてくれる。
大手の真似ではない。
あなた自身の「覚悟」を持って、あなたの会社にとっての真の価値創造に繋がるDXを選び取ることが肝要である。
「記事になっているから同じ方法でできるはずだ」
「うちもこの方法でDXができる」
といった思考停止から脱却し、あなただからできる未来を掴むためのDXを行うべきである。
最後に:中小企業よ、未来を掴む「覚悟」を持て
今回のコラムはどうだっただろうか。
読者の皆様にとって、今回のコラムが何か気づきや学びになれば幸いである。
目的なきDXは全てを破壊する。
日本企業のDXは、コスト削減を目的とすることが多い。
しかし、コスト削減はおまけと思うべきだ。
コスト削減だけを目的としたDXは、DXではない。
中途半端なIT化である。
この真理を腹の底から理解し、あなたの会社を分析し、お客様を分析し、何を届けたら喜んでいただけるのかを考えよう。
価値創造こそが今後の企業にとって生き残る道であり、中小企業が大手に勝つ唯一の方法である。
さて、最新情報はスタンドエフエムで投稿している。
IT関連の話題を別角度から見てみたい
ITニュースを簡単に知りたい
IT化やDX化の話題を学びたい
自分の会社が効率化ができるか知りたい
自分の時間を大事にしたい
といった方は是非スタンドエフエムを覗いて欲しい。
それでは、また次回のコラムでお会いしよう。