COLUMN コラム
不登校の経験から教師を志し、エンジニアを経て26歳で社長に就任。
現在は社長業と現役エンジニアという二つの顔を持つ株式会社皆人の加門和幸社長。
試行錯誤を重ねながら独自の経営哲学を築き上げてきた加門社長に、その波乱に満ちた歩みと経営に対する想いを伺いました。
教育への思いから始まった、エンジニアという選択
―初めに、経営者としての道を選ばれるまでの経緯を教えていただけますか?
大きな転機は、“エンジニア”という職業に出会ったことです。
実は、私には中学時代に不登校を経験した過去があります。その経験から、教育現場に携わりたいと考え、教師を志すようになりました。自分と同じような経験をする子どもたちの力になりたいという思いがあったんです。
しかし、実際に教育現場に触れてみると、様々な課題に直面することになりました。
モンスターペアレントの存在や、柔軟性に欠ける教育システム、教育内容は常にアップデートが必要なのにアップデートできない職場環境……。
何より、本来最も大切なはずの子どもたちと向き合う時間が十分に取れない教育体制に疑問を感じたのです。
もちろん、先生方は一生懸命やられています。
でも、先生方を取り巻く環境が十分な教育を行えなくしていると感じたのです。
結局、自分には教師は向いていないと判断し、その道を断念することにしました。
―教職を断念された後、どのようにして現在の道に進まれたのでしょうか?
教育への思いは捨てきれず、大人向けの教育や塾講師の道も検討しました。
さらには、より大きな視点から社会に貢献できないかと考え、社会を変える職業と言えば政治家だ!と考えたこともあったり。そして、最終的には「社長」という道を目指すことにしたのです。ただこの時は本当に漠然としていました。社会に影響を与えることができる職業として起業家になることを考えただけだったんです。
「まずは経験を積む必要がある」と考えて就職した会社の配属先で、ウェブ制作に携わる機会を得ました。その仕事が本当に楽しくて、先輩に今やっている仕事はどのような職業なのか聞いたんです。その時に初めてエンジニアという職業と出会ったのです。
ウェブ制作の仕事を行っていく中で、エンジニアとはどういった職業なのか気になり始めました。そこでエンジニアとは何をする人なのか、どういう結果を社会にもたらすのか調べました。調べれば調べるほど、エンジニアという仕事が日常生活に密接に関わっていることを実感しました。AmazonやInstagram、Facebookなど、多くの人々が利用するウェブサービスの背後にはエンジニアの存在があることに気づいたんです。
そして、エンジニアとして社会課題を解決できる人間になりたい、そして、いつか社会課題を解決するサービスを届ける会社を作りたいという思いが芽生えました。
26歳での社長就任と試行錯誤の日々
―予想より早く経営者になられたそうですね。
はい。もともと40歳までは社長になるためのキャリアを作るというキャリアプランを立てていて、実際に起業するのは40代になってからと考えていました。ところが、エンジニアとして1年も経たないうちに社長になる機会を得ました。
ただ、その時の私には人脈、スキル、情報、キャリア、経験のいずれも不足していて……。会社としての明確な目的もなく、ただ『社会課題を解決する会社にしたい』という漠然とした思いだけを抱えてのスタートでしたね。
15年かけて形成しようと思っていた人脈もスキルもキャリアも経験もすっ飛ばして、代表になったので、当たり前と言えば当たり前ですね。
―そのような状況で、どのように経営に取り組まれたのでしょうか?
当初は「みんなの思いを形にしたい」という考えが強すぎたと思います。私以外が40代以上で私だけ20代というのも影響していたと思いますし、社長になってしまったという申し訳なさもありました。今振り返ると、社員に遠慮してしまうシーンが多かったように思います。
就任当時は正直、やりづらくてしょうがなかったんです。
年上の社員ばかりという環境だし、エンジニアになってまだ1年しか経ってないし、何をするにも自信が持てない状況でした。人脈も情報も技術もなく、社長としての経験も浅いことから、常に不安を抱えていました。
そのため、自然と社員のことを最優先に考え、会社のことや事業のことは後回しにして行動してしまっていたんです。社長としてのビジョンや戦略を持つことよりも、「社員が望むことをすべて叶えることが、良い会社づくりにつながる」と、そう思い込んでいました。
しかし、このような経営スタイルでは、会社としての方向性が定まらず、社会的な価値も生み出せません。結果として、社員のためと思ってやっていたことが、実は誰のためにもなっていなかったのです。
―その気づきはいつ頃訪れたのですか?
社長に就任して5年ほど経った頃です。試行錯誤や勉強を繰り返す中で、「会社として体をなしていない」と気づきました。
私は「会社の存在意義=社会貢献」だと考えています。元々起業家になりたいと考えたのも社会貢献でしたし、エンジニアで会社を作ろうと考えた時も社会貢献でした。でも、当時の自分に「社会貢献ができているか?社長としてどこに意識を向けているか?」と問われたら、答えは「社員の方だけを向いている」でした。
社会でもお客様でもなく、社員だけを見ていたんです。
「自分のことしか考えていない会社は嫌だな」と思い、そこで大きく考え方を変えることにしました。
社員の思いを形にするという根本は今も変わっていませんが、それだけでは不十分で、社会貢献ができる会社、つまり社会やお客様にも目を向けた経営が必要だと気づいたのです。
現役エンジニア社長としての挑戦
―現在も現役のエンジニアとして活躍されていますが、どのように経営と両立されていますか?
開発業務がない日や開発業務後に、経営者としての業務に専念しています。営業活動をはじめ、資料作成、顧客フォロー、経理業務など、多岐にわたる業務をこなす毎日です。
特に現在は、自社サービス「楽デジ」の営業に注力していますね。
実は、ほとんど毎日15時間近く働いているんです。
―そんなに働いていて疲れませんか?
意外かもしれませんが、まったく疲れを感じません。毎日のように学びや成長があって、仕事が楽しくてやめられないんですよね(笑)。特に、昨日できなかったことができるようになったり、今まで考えたことのない思考に至ったりしたときに、自分の成長を感じます。新しい情報や発見があると、感動もします。こういう何気ない毎日に心が動く瞬間を大事にしているからこそ続くのかもしれません。
そうすると仕事人間みたいに思われると思いますが、もちろん自分の時間も大事にしています。人は1日最低でも2時間は自分の時間がないと不幸を感じると研究結果が出ていますので、毎日2時間の自分の時間を作っています。たとえばアニメを観たり映画を観たりすることもありますし、漫画を読むこともあります。ゲームも好きなので、ゲームもしています。ずっと働き続けるというよりも小まめな休憩を挟んで仕事をするし、自分の時間を大事にするからこそ続くのだと思います。当たり前ですが、超人ではないので疲れることもあります。もうやりたくないって思うことだってあります。そういう日は無理せず、寝る!これ一択です。翌日になると精一杯全力でまたチャレンジできるようになっているんです。
ただし、社員にはしっかり休むように伝えており、残業もしないように促しています。
皆人のモットーは「休むに命をかける」です。自分の時間をしっかり守る。これが大事です。いくら残業しても、評価はしないと公言しています。
―SESという働き方についてはどのようにお考えですか?
SESという働き方って嫌われてますよね。
でも、個人的にはすごく気に入っています。
きちんと技術を身につける環境に身を置ける、ということが何よりの魅力ですね。
私は、自主的にエンジニアとしての勉強をするのが大の苦手で(笑)。
業務後に勉強しようと思っても、なかなか身が入りません。
でも、仕事となれば話は別です。初めてのことでも求められたことに対応しなければなりません。SESとして働くことで、必然的に新しいことを学ばざるを得ない環境に身を置けるんです。働きながら、自然と最先端の技術が身につく。それが私にとっては理想的な働き方だと感じています。エンジニアでいる以上は、常に新しい技術やスキルを学習する必要があります。私みたいに日常的に学習するのが苦手な方は、SESを検討してもよいと思います。
目指す会社の未来像
―これから、皆人をどのような会社に育てていきたいとお考えですか?
一言で言うと、「自分の家族や親戚、友人に自慢したくなる会社」です。
一般的に私たちの人生で一番長いのは、社会人生活。そのなかで、1日の多くの時間を占めているのが仕事です。
そう考えた際に、「その仕事を誇りを持って伝えられるのか」「誰にでも自慢できるのか」ということが人生において重要な要素になると思います。もし仕事が退屈だったり、苦痛だったりしたら、人生もまた退屈で苦痛なものになるのではないでしょうか。特に自分の子どもやパートナーに自慢できる会社でありたいと考えています。もしそんな会社だったら素敵じゃないですか?
―具体的には、どのような会社を目指されていますか?
- 日本で一番働きやすい環境を構築したい
- 女性が働きやすい環境を作りたい
- 社員の人生やご家族に責任を持てる会社に成長したい
- 顧客や社会にも貢献できる会社にしていきたい
など、様々な視点があります。
とにかく、みんなで一緒に会社を作っていきたいんです。
「あれをしろ」「これをしろ」って命令するのは簡単ですが、私はそういうこと好きじゃないし、それだと自主性も生まれないし自信持って自慢できる会社にならないと思います。
一人ひとりが会社のこと、サービスのこと、顧客のことを真剣に考えて、提案して、行動する。そうした自主性と責任感を大切にしています。
―最後に、経営者としての覚悟についてお聞かせください
最終的に、会社の責任を持つのは私であり、社員を守れるのも私です。
「会社を成長させたい」「社員のみんなに気持ちよく働いてほしい」「お客さんに喜んでもらいたい」その気持ちをちゃんと形にするためには、私自身が成長するしかありません。
その覚悟を持って日々仕事に臨んでいますし、私が成長することで、会社全体を守っていけるようにしたいと思っています。社員に対しては、最後まで責任を負う。そこだけは、どんな状況になっても変わりません!
編集後記
加門社長の言葉の端々から感じられたのは、社員への深い責任感と、会社を通じて社会に貢献したいという強い思いです。
社員一人一人の成長を見守りながら、自らも成長を続ける。そんな加門社長の新たな挑戦は、これからも続いていきます。