COLUMN コラム

2025.02.17
経歴詐称があるからSESは嫌われる

経歴詐称があるからSESは嫌われる

SES業界で問題視される経歴詐称。利益追求による不誠実な企業の存在が業界全体の評判を下げている一方で、誠実に事業を展開する企業も多数存在する。本記事では経歴詐称の実態について解説する。

働き方としてSESは嫌われる。

大不評だ。

私は一人のエンジニアとしての成長を考えた時、自社開発をしている会社よりもSESの方が成長しやすいと考えている。

他にも、いろいろ言いたいことはある。

だが、今回はこの件についてではない。

会社側の不誠実さがSESの悪評を広げている件について語りたい。

誠実な企業が多い一方で、バラまき対応をする営業イケイケの会社もある。

その中でも経歴を詐称する企業が最も悪質である。

2024年7月に判決が出た「経歴詐称SES裁判」があったことは記憶に新しいだろう。

今回はこの経歴詐称について言及していきたい。

人ありきのビジネスモデル

SESは社員を外部のプロジェクトに出向させることで利益を得るビジネスモデルである。

言葉を選ばずに誰でも理解できる言葉でいうと、派遣ビジネスだ。

派遣ビジネスと違うところは、所属会社との関係性は正社員であることで、出向時の契約は派遣契約ではなく準委任契約である点だ。

そのため、受入先は指示命令権を持たず契約内容と違うことを依頼する時は事前に所属会社に許可を申請する必要があり、場合によっては契約書の見直しが発生する。

とはいえ、労働を対価にお金をいただくビジネスモデルであるということには変わりない。

ということは、人が必要であり、人がいないとそもそもビジネスとして成り立たないのだ。

では、人は無限にいるのだろうか?

答えはNOである。

協力会社として横のつながりで人のやり取り、案件のやり取りはある。

だが、人は貴重な資源であり、限られている。

 

となると、どうするのか?

広告でエンジニア候補生を釣るしかないのだ。

 

元・保育士

元・花屋

元・大工

 

などなど。

仕事が大変だけど、給料が安いことに不満と不安がある人たちに向けて、「簡単に100万円の月給を得ることができますよ」と広告を打つ。

そんな未来があるのかと期待して、SES業者の鴨になるのだ。

当然だが、そんな甘い話はない。

エンジニア育成のための教育事業が賑わっているが、半年程度の学習でエンジニアになれるなら苦労しない。

だいたい一人前になるのに3年から5年くらいはかかる。

広告の100万レベルのエンジニアなんて無理だ。

だが、SESは人を求めている。

そんな人でもいいから集めて、出向させてしまえばお金をもらえる。

求職者がどうなろうがどうでもいい。

だから、募集しまくってやってきた鴨を片っ端から採用して出向させるのだ。

その時に問題になるのが経歴である。

受入先も素人を受け入れるリスクがあるので、ある程度経験のある人を採用したい。

経験者はいない。

素人しかいない。

じゃあ、どうするか?

そこで簡単な解決方法がある。

素人を経験者とすればよいのだ。

これが今回の裁判で発生した「経歴詐称」である。

なぜ経歴詐称をするのか?

そもそもSES事業を行っている会社はなぜ経歴詐称をするのか?

理由としては2つあると考える。

  1. 利益を確保したいから
  2. プロジェクト単価を上げたいから

この2つについて見ていきたい。

利益を確保したい

SESは人ありきのビジネスモデルである。

経験者の確保は難しい。

であるなら、素人を大量に採用した方が簡単だ。

エンジニア育成事業も流行っている。

そうした事業をしている会社と連携して採用すれば、簡単に集めることができる。

で、人件費がかかるわけだ。

毎月毎月かかる。

たとえば30万としよう。

1人当たり360万円も年間で消える。

10人なら3600万円も消える。

会社としては早く売上を立ててもらわないと困るわけだ。

だったら、とにかく何でもいいから行ってこい、そういう気持ちになる。

赤字が重なるのが怖いのだ。

特にこうした企業の特徴として初心者を大量に募集して採用する傾向にある。

そのため、出向できないとリスクが大きい。

私も経営者である。

赤字を垂れ流しお金がどんどん消えていく様を見る恐怖も理解できる。

だから、「何でもいいから行ってこい」という気持ちになるのも分かる。

だからといって、お客様や社員を騙すのは許されることではない。

この一線を越えてはいけないだろう。

プロジェクト単価はなかなか上がらない

さて、次の理由としてはプロジェクトの単価である。

昇給したい気持ちはあるが、プロジェクト単価が低く昇給できない、というケースは多い。

別のプロジェクトに行く時に単価を上げることで解消する企業も多い。

そこで、経験していないことを経験したことにして単価を上げようと考えて実行してしまうのだ。

もちろん、社員の昇給だけを目的としていないことも多い。

利益率を上げるために経歴を詐称するケースもあるからだ。

上流工程ができる・できないだけでかなり金額が変わる。

このことを知っているからこそ簡単に「上流工程の経験があります」と嘘をついてしまうのだろう。

経歴詐称に見え隠れする他の要因

ここまで所属会社に視点を置いて語ってきた。

ここからは他の要因についても考えてみたい。

大きく見ると1つになるのだろうが、2つある。

1つは新人教育体制の欠如で、もう1つは外国人材の拒否感である。

1つずつ見ていこう。

新人に優しくない社会

私が新人だった頃、すぐに案件が決まった。

4ヶ月の国がやっている職業訓練校で学んだだけの私は、フレームワークも学んでいないし開発の「か」の字も知らないような新人だった。

今のエンジニア育成施設を出た人の方が、エンジニアとしての知識レベルやスキルが上なのではないか?って思うレベルだった。

26歳という若さがあったからという理由もあるが、それでも新人を受け入れて育てていこうという会社が多かったように思う。

今はこの考えを持っている会社が少なくなったのではないだろうか。

もちろん昔から経歴詐称はあった。

私の知り合いにPHPを触ったこともないのに、経験があると経歴書に勝手に書かれた人がいる。

2015年より前の話なので、SES業界ではかなり日常的に行われてきたと言えば、確かにそうではある。

しかし、とはいえ、その頃はまだ新人育成に対して寛容的だったと思う。

今は残念ながら、新人が育ちにくい環境になったと思う。

この理由としては企業として失敗するリスクを背負いたくない、無駄なコストを支払いたくない、というものがあるだろう。

また、技術レベルをチェックする人が技術を分かっている人ではなく、ただ文字列をチェックする人に変わってしまったことも理由の1つだ。

つまり、これまでは「こういうスキルがあるなら、これも大丈夫だろう」と判断して採用することがあったが、「こういうスキルがないなら、たとえ10年選手でも無理です」と書いてあるかどうかでしか判断しない人が担当になってしまった、ということだ。

このように担当レベルの低下や社会情勢の変化、企業の姿勢の変化が理由で、新人が育ちにくい環境になってしまったのだと私は考察している。

外国人への拒否感が強い

経歴詐称が起きてしまう、もう1つの理由としては外国人への拒否感である。

日本の人口は年間80万人も減っている。

山梨県が1つ毎年消えているレベルだ。

過去10年間にすると、静岡県が消えるレベルで人口が減っている。

それくらい人口が減っている。

SESは人ありきのビジネスモデルである。

じゃあ、どこから経験者を求めたらいいだろうか?

簡単である。

人がいるところから募集すればよいのだ。

日本はダメだ。

なら、海外から集めればいい。

このように発想できるわけだが、受入先が完全NGである。

理由は、「日本語ができないから」。

違う。

正しくは「自分たちが英語を話せないから」である。

 

原則的に同一国家の民族しか会社にいないという例は世界的に見て珍しい。

Googleの親会社アルファベットのCEOであるスンダー・ピチャイはインド出身のインド系アメリカ人。

イーロン・マスクは南アフリカ共和国にルーツを持つ。

みんな大好きなスタバの元CEOもインド系アメリカ人であるラクスマン・ナラシムハン。

最近注目度が高いNVIDIAのCEOであるジェン・スン・フアンも台湾系アメリカ人。

 

このように世界的に見ると、意外に外国人が多い。

最近はインド人の台頭がすごい。

私たちは優秀な先人たちのおかげで鎖国状態でも何とかなった。

だが、今や開国しないと人口減少をしている日本においてビジネスは難しくなってきている。

 

英語を話せないから英語しか話せない人とビジネスができないのは、単なる言い訳に過ぎない。

こんなことを書いている私自身、英語を話せない。

だから強く言えないが、英語の必要性をひしひしと感じる。

 

とにかく日本は英語への抵抗感、外国人への拒否感が強い。

だが、国際化した社会であり、ITによって縮小した世界であり、人口減少による日本ビジネスの縮小した世界において、いつまでも日本語しか無理、外国人反対!は無理な話なのだと考える。

最後に

今回、経歴詐称事件を受けてコラムを投稿してみた。

まとめると以下のようになる。

 

SES事業の限界は見えている。

受入先が外国人NGとしているし、日本語を必須とする以上、海外のエンジニアを連れてくるわけにもいかない。

そんな中でSESをやろうとすると、素人を引っ張ってくるしかない。

だが、素人は受け入れてもらえないので、赤字が続いてしまう。

じゃあ、経歴詐称してでも黒字にしないといけない。

 

理屈は分かる。

経営者であるので、気持ちも分かる。

すごく簡単に考えると、自分勝手で利益しか追いかけない会社や人を人と思わない特徴を持つ会社が経歴詐称を行うのだろうと思う。

やっていいことといけないことがある。

本当のことにできない嘘は絶対に言ってはいけない。

経歴詐称をするSES企業の特徴は4つある。

  1. 未経験者を大歓迎していること
  2. 常に大量募集をしていること
  3. 選考フローが短すぎること
  4. スキル不足でも採用していること

 

選考フローが短い理由が納得できるものであるならよいと思う。

たとえば1回目が社長面談だから、選考フローが短い、といったケースだ。

だが、社長も出てこないのに1回目の面談でOKという場合は、怪しいと思ってよい。

具体的には「経歴詐称をするSES企業・IT派遣会社の特徴4選|エンジニア派遣やフリーランスも要注意」を参考にしていただきたい。

 

 

さて、SESは悪質な面ばかり注目されるがちである。

だが、真面目にやっている会社の方が多いし、SESという働き方はエンジニアとして利点も多い。

特に真面目である会社が多いということだけは知っていただきたい。

不正を働いた銀行があるからと言って、銀行全体が悪ではないのと同じだ。

一部の悪徳な会社があるだけである。

そして、それは避けることができる。

どうか善良な会社があることを知っておいていただきたい。

 

ちなみに、弊社の名前である「皆人」は、「人」を大事にしていきたい、嘘をつきたくない、誠実な思いで会社を経営していきたい、という思いから付けた。

これは代表に就任して以降、変わらない気持である。

今後も弊社は社会に、人に、誠実であり続けていく。

 

今回のコラムが何か気づきや学びになった方はシェアをしていただけると嬉しい。

また次回のコラムでお会いしましょう。

CONTACT お問い合わせ

    お問い合わせ種別[必須]

    当ウェブサイトにおける個人情報の取り扱いにご同意の上、送信してください。