COLUMN コラム

2025.02.24
経産省の「2025年の崖」はミスリードか

経産省の「2025年の崖」はミスリードか

「2025年の崖」とDXの真相に迫る - 経産省DXレポートへの異論と実態。レガシーシステム刷新だけでは解決できない 日本企業のDX課題と、経済損失12兆円の疑問点を徹底検証します。

つい先日、このような記事を見つけた。

さて「2025年の崖」の年だ、経産省はDXレポートのミスリードに落とし前をつけてくれ

 

情報収集不足を思い知ったが、なんだこれ、と思い今さらながら調べてみた。

本当にITを知っている人なのか?と言いたくなる気持ちでいっぱいで、本当に木村氏のご指摘通りだと思うばかりだ。

なので、今回のコラムは上記の記事を読んでください、で終わるのだが、これで終わってしまっては元も子もないので、私の意見を述べていこうと思う。

そもそも「2025年の崖」って何だ?

そもそも論ではあるのだが、2025年の崖とは何だろうか?

私が知らなかったことなので、あまり一般的なワードではないのでは?って思う。

そこで、まずは2025年の崖とは何かを見ていこう。

経済産業省が出しているDXレポート(DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~)が事の始まりであるようだ。

これは平成30年9月7日に発表されたものである。

平成30年は2018年なので、2025年の今からすると5年間の猶予があったことになる。

国が書く文書が分かりにくいという方のために各社が簡潔にまとめてくれている。

経済産業省の「2025年の崖」について分かりやすく解説

経済産業省による「2025年の崖とは?」わかりやすく解説

 

要するに、2025年までに完了しないと経済的損失が大きいから日本企業はDXを頑張れ、ということである。

日立ソリューションズ・クリエイト社がまとめている記事を見ると分かりやすいが、12兆円ほどの経済損失が発生するらしい。

 

そのための方針として

  • DXをするためにレガシーシステムが足を引っ張ってるので、レガシーシステムを廃止しよう
  • DX人材が必要なのでDX人材を育成しよう
  • 経営層のITリテラシーを高めよう

などだろう。

レガシーシステムを目の敵にしすぎ

国が言っているわけだし、本当のことだろうと思う人もいるだろう。

だが、本当にそうなのかと聞かれると怪しいのだ。

「レガシーシステムがDXの足を引っ張っている」という主張は、レガシーシステムを活用していない企業は全てDXが成功していないといけない。

しかし、「8割以上の企業がDXにつまずくワケ 越川慎司氏が徹底分析」を見ていただくと、DX成功例は2割というのだ。

800社以上のDXを支援されてきた越川氏が仰っているが、800社全部が全部レガシーシステムを活用しているとは限らないだろう。

こう考えた時、レガシーシステムだからDXができない、という理由には至らない。

また、逆にレガシーシステムを一新したからと言って、DXができると言い切れるのはなぜだろうか。

新しいシステムに変えたからと言って、100%DXができるわけではないのだ。

このように考えた時に、なぜレガシーシステムを目の敵にするのだろうか?と思わざるを得ないのだ。

 

既存システムのブラックボックス状態を解消できず、データ活用ができないので、DXが実現できないのみならず、システムの維持管理費が高額化しシステム障害なども頻発して、2025年以降は毎年、最大で12兆円の経済損失が生じる可能性がある。

 

さて、色々ツッコミどころが満載だ。

新規システムにしてもブラックボックス化する

既存システムだからブラックボックスです、というのはどうだろうか?

別に新規システムにしてもブラックボックス化することは容易に分かる。

クラウドサービスを使おうが

自前で開発しようが

何をしようがブラックボックス化する。

なぜなら自分たちの業務を一切棚卸していないからだ。

システムがなくなった瞬間、業務を実行できなくなる。

そして、新規システムの切り替えで失敗するのは、これが原因だ。

システムのせいだけではないのが現実なのだ。

それをレガシーシステムが原因であると決めつけるのは、安直すぎて開いた口が塞がらない。

属人化した業務はないだろうか?

この人しかできない業務は、まさにブラックボックスである。

システムの世界だけで起きている問題ではないのだ。

 

また、既存システムの中身を知っている人がいないことをブラックボックスと言う人がいるが、それなら余計にクラウドサービスなんて使っちゃダメだろう。

クラウドサービスの中身なんて一切教えてもらえない。

どう動いているかなんて教えるはずがない。

 

ブラックボックスだから悪ではない。

ブラックボックスで業務ができない状況を作り上げている組織が悪なのだ。

そして、ブラックボックスは業務を棚卸することで解決することができる。

この過程の重要性に気づかないから、ブラックボックスが問題だと簡単に言えてしまうのだ。

「既存だからブラックボックス状態で、新規だからブラックボックスじゃない」という公式は一切成り立たない。

データ活用ができないのもブラックボックスのせいではない

まだまだツッコんでいこう。

「既存システムのブラックボックス状態を解消できず、データ活用ができないので、DXが実現できない」という文脈を素直に解釈すると、既存システムを使っているとブラックボックス化してしまって、そのせいでデータ活用ができない、という風に読み取れる。

その結果、DXができないとしている。

これは真実だろうか?

私は、DXを実行するのに特にハードルは高くなく、マーケティングができる人とデータを分析できる人がいて、データとExcelがあれば実現できると考えている。

この考えで行くと、社長とマーケッターとデータエンジニアの3人がいればよいとなる。

社長以外は外部でよい。

社長しかできない属人化しまくった業務運用オペレーションはブラックボックスまみれである。

では、DXを実現できないだろうか?

答えは否である。

もちろん、これは極端な例である。

現実的な話をすると、達成不可だろう。

だが、理論上は上記の通りであると考える。

 

このようにブラックボックス化していても、やろうと思えば可能なのだ。

データを蓄積していれば活用ができる。

どのようにデータを蓄積しているのか

何をゴールにしているのか

どう扱っていきたいのか

といったことが大切だ。

 

レガシーシステムが悪である根拠は一切ない。

というか、正直に言うと、GoogleフォームやMicrosoft Formsを使ってデータを収集して、Excelなりスプレッドシートなりで管理してデータ活用する、ということもできる。

極論、システムなんていらない。

Excelだけで十分だ。

なのに、データ活用ができないのはブラックボックスのせいで、ブラックボックス化しているのは既存システムのせいという論法で攻めてくる。

何ともまぁ、お粗末である。

スイスのIMDの研究結果では、日本のビッグデータの活用レベルは63か国中の63位である。

そもそもレベルが低いのだ。

そんな企業が山ほどいるのに、データ活用とDXなんてできるはずがない。

既存システムの入れ替えだけでできるわけがないのだ。

経済損失は、DXができないから起きるのではない

システム維持管理費の高騰やシステム障害の頻発化によって12兆円の経済損失が発生する。

うーん、少し大げさである。

この最大12兆円の経済損失は何を根拠にしているのか。

本当に分からない。

レガシーシステムを使っているとブラックボックス化して、データ活用できなくてDXができないから経済損失が起きる

ということなのだろう。

だが、レガシーシステムのせいでそんなに経済損失が起きるとは思えない。

DXだって、既述の通りやろうと思えばできるだろう。

むしろ、日本経済が悪化し日本企業が世界との競争に敗北した結果として12兆円の経済損失が発生するから、今の内にDX化をして競争優位性を確立する体制づくりをしよう!と言われた方がしっくりくる。

その一環としていくつかある対策の1つにレガシーシステムの刷新がある、と言われると私も納得だ。

 

日本経済も国際経済の中に組み込まれている。

だから、国際的な競争力がないと日本経済がどんどん悪化していくというのは当たり前だろう。

そのために、今から競争力を付けないと12兆円の経済損失が発生する。

本来はこのシナリオであるべきではないだろうか。

レガシーのせいで12兆円も損をする、というのはいささか飛躍していると感じるのだ。

DXレポートの主張は日本経済を圧迫しただけ

こうしたキャッチーな言葉をメディアはこぞって報道する。

しかも、さらに恐怖や危機感を煽って報道する。

2025年にレガシーシステムを刷新しないと12兆円も損をする

という風にメディアが騒ぐ。

すると、どうなるか。

IT業界がここぞとばかりにメディア報道事例を片手にITに疎い人を食い物にする。

本当にやりやがる。

そして、やりやがった。

本来は使わなくてもいいところにお金を使って、あくどい企業の懐がホッカホカになった。

本当にこういう業者がIT業界に腐るほどいる。

是非気を付けて欲しい。

名前だけDXと付けたITサービスがどれほどあるか。

腐るほどある。

掃いて捨てるほどある。

DXは簡単ではない。

非常に難しい。

この事実をちゃんと知った上で選んでいただきたい。

システムの耐用年数を知っておこう

最後になるが、システムの耐用年数を知っておく必要がある。

これを知らないからレガシーシステムが世に多く存在する。

 

レガシーシステムは確かによくないが、DXを推進する上ではほぼ関係ない。

だが、企業としての信頼感や業務効率、データの信頼性など考えると、レガシーシステムは改善すべきと言える。

では、一体どのくらいがシステムの耐用年数と言えるのだろうか。

 

実は3~5年だ。

3年くらいするとシステムを形作っている言語やサーバーの保守サポート期間が切れ始める。

切れてしまうと何かあっても対応できなくなるし、何か起きやすくなる。

何より開発者を探すことも難しくなる。

業務上においても運用していくことで変わってきた内容がどんどん増えていく。

最初の頃よりも3年も経つと全然違う業務フローを行っているケースもある。

そのため、3年くらい経つと、システムの見直しを計画し始めるのがよいだろう。

 

意外に短いのだ。

これをやり続けるには相当キャッシュが必要になる。

IT投資はある程度のキャッシュができてからやるべきだし、自社システムを推奨しないのもこれが理由だ。

そもそもビジネスのライフサイクルが3年から5年と言われている現代にあって、もし自社システムを開発するのであれば5年以上のシステム運用は致命的ともいえる。

業務運用をしていく中で様々な変更点があるはずだ。

その棚卸を行っていくことでブラックボックス化を避けることができる。

その人しか分からない状況は企業にとって最も避けなくてはならない状況なのだと心掛けるべきである。

 

逆に言うと、システム導入時の判断基準としてメジャーアップデートがいつ行われたのか、を見るのもよいだろう。

せめて最低でも3年に一度のメジャーアップデートが行っていて欲しいところだ。

もし確認するなら、開発言語とバージョンの確認、そしてバージョンアップを最後に行った時期を確認できれば最高だ。

 

さて、今回はこの辺で終わろうと思う。

今回のコラムが何か気づきや学びになれば幸いだ。

それでは、次のコラムでお会いしましょう。

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